2026年3月号
「第12回:魚形皿」
日ごと春の兆しを感じられるこの頃、戸栗美術館では3月22日(日)まで『古伊万里いきもの図会展』を開催しています。今月の学芸の小部屋では出展中の「染付 魚形皿」をご紹介いたします。
魚は、水源豊かな日本では見るも食べるも馴染み深いいきものです。魚形皿は文字どおり魚の形をした皿。伊万里焼の技術革新期以降の成形技術の向上も手伝い、轆轤型打ち成形や糸切り成形などの技法を用いて、大小様々な魚形皿が作られました。
今展でも「染付 魚形皿」を3種出展しています。本稿では便宜的にアルファベットを振り、それぞれの特徴を以下にまとめました(図1)。
いずれも、形や絵付けの様子からタイの類を意識したものと思われますが、特に図1のCは鰭(ひれ)の造形や櫛鱗(しつりん)の描き込みなどにその特徴が強くあらわれています。
それぞれ表現は異なりますが、3点に共通するのは型を使用した成形であるということ。特にCは、目や口、鰓蓋(えらぶた)、胸鰭(むなびれ)、腹鰭(はらびれ)、尻鰭(しりびれ)、背鰭(せびれ)、尾鰭(おびれ)などに凹凸を微かに施し、魚の造形を強めています。恐らくこの凹凸は、絵付けの際にはあたり線としても機能したのでしょう。
また、A、Bは左向きであるのに対し、Cは右向きであるのも特筆されます。こうした右向きの魚形皿は、伊万里焼では17世紀後半頃には見られ、19世紀以降に増加すると言います。江戸時代後期から明治時代にかけての右向きの魚形皿の人気ぶりを物語るのが、伝世の型の存在です。
江戸時代後期に轆轤型打ち成形での生産を主力とした佐賀県有田町・黒牟田地区に所在する梶謙製磁社 型の美術館には、同地に伝わる江戸時代後期から明治、大正、昭和にかけての型が約2,000点所蔵されています。中でも右向きの魚形皿の型は、江戸時代後期から明治時代にかけて数多く作られていたようで、複数のサイズおよび素材のものが伝わっています(図2)。
図1のCとサイズ・デザイン共に類似する土型も所蔵されていました(図3)。
ただし、尾鰭の造形は表現が異なります。むしろ別のサイズの魚形皿の土型に本作により近い表現での仕上がりが想像されるものがあり、サイズのほか細部にもヴァリエーションをもたせていたことが見て取れます(図4)。
型は陶磁器の成形に用いられる道具であり、長く繰り返し使うことができますが、消耗品です。陶磁器の産地で江戸時代の型が現代まで残っている例は少なく、大変貴重です。現存する作例や出土品のみならず、生産にかかわる道具からも、当時の流行や好みがうかがえます。
【主な参考文献】
佐賀県立九州陶磁文化館『古伊万里の見方 シリーズ2 成形』同2005
野上建紀「近世後期の肥前磁器の画一的生産と製品種別制度」『金大考古 57』金沢大学考古学研究室2007
兵庫陶芸美術館『型が生み出す、やきものの美―柿右衛門・三田―』同2010
佐賀県立九州陶磁文化館『柴田夫妻コレクション総目録(増補改訂)』同2019
謝辞
本稿執筆にあたり、梶謙製磁社代表取締役社長 梶原謙一郎氏には、ご所蔵の型の調査および各種画像の使用許可に加え、詳細なご教授を賜りました。記して御礼申し上げます。
魚は、水源豊かな日本では見るも食べるも馴染み深いいきものです。魚形皿は文字どおり魚の形をした皿。伊万里焼の技術革新期以降の成形技術の向上も手伝い、轆轤型打ち成形や糸切り成形などの技法を用いて、大小様々な魚形皿が作られました。
今展でも「染付 魚形皿」を3種出展しています。本稿では便宜的にアルファベットを振り、それぞれの特徴を以下にまとめました(図1)。
いずれも、形や絵付けの様子からタイの類を意識したものと思われますが、特に図1のCは鰭(ひれ)の造形や櫛鱗(しつりん)の描き込みなどにその特徴が強くあらわれています。
それぞれ表現は異なりますが、3点に共通するのは型を使用した成形であるということ。特にCは、目や口、鰓蓋(えらぶた)、胸鰭(むなびれ)、腹鰭(はらびれ)、尻鰭(しりびれ)、背鰭(せびれ)、尾鰭(おびれ)などに凹凸を微かに施し、魚の造形を強めています。恐らくこの凹凸は、絵付けの際にはあたり線としても機能したのでしょう。
また、A、Bは左向きであるのに対し、Cは右向きであるのも特筆されます。こうした右向きの魚形皿は、伊万里焼では17世紀後半頃には見られ、19世紀以降に増加すると言います。江戸時代後期から明治時代にかけての右向きの魚形皿の人気ぶりを物語るのが、伝世の型の存在です。
江戸時代後期に轆轤型打ち成形での生産を主力とした佐賀県有田町・黒牟田地区に所在する梶謙製磁社 型の美術館には、同地に伝わる江戸時代後期から明治、大正、昭和にかけての型が約2,000点所蔵されています。中でも右向きの魚形皿の型は、江戸時代後期から明治時代にかけて数多く作られていたようで、複数のサイズおよび素材のものが伝わっています(図2)。
図1のCとサイズ・デザイン共に類似する土型も所蔵されていました(図3)。
ただし、尾鰭の造形は表現が異なります。むしろ別のサイズの魚形皿の土型に本作により近い表現での仕上がりが想像されるものがあり、サイズのほか細部にもヴァリエーションをもたせていたことが見て取れます(図4)。
型は陶磁器の成形に用いられる道具であり、長く繰り返し使うことができますが、消耗品です。陶磁器の産地で江戸時代の型が現代まで残っている例は少なく、大変貴重です。現存する作例や出土品のみならず、生産にかかわる道具からも、当時の流行や好みがうかがえます。
(小西)
【主な参考文献】
佐賀県立九州陶磁文化館『古伊万里の見方 シリーズ2 成形』同2005
野上建紀「近世後期の肥前磁器の画一的生産と製品種別制度」『金大考古 57』金沢大学考古学研究室2007
兵庫陶芸美術館『型が生み出す、やきものの美―柿右衛門・三田―』同2010
佐賀県立九州陶磁文化館『柴田夫妻コレクション総目録(増補改訂)』同2019
謝辞
本稿執筆にあたり、梶謙製磁社代表取締役社長 梶原謙一郎氏には、ご所蔵の型の調査および各種画像の使用許可に加え、詳細なご教授を賜りました。記して御礼申し上げます。
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