学芸の小部屋

2026年2月号
「第11回:千鳥」

 暦の上では春間近とは言え、寒い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。現在、当館では『古伊万里いきもの図会(ずえ)展』を開催中です(〜3月22日(日))。館蔵の伊万里焼から、動物や鳥、魚などのいきものをモチーフとした作例、約80点を出展。江戸時代の百科事典である『和漢三才図会』(寺島良安編/1712年自序)の項目分類を参考に展示を構成し、30種以上のモチーフの意味や逸話、伊万里焼における表現など、多角的にご紹介しております。今回の学芸の小部屋では、出展品の中から「染付 千鳥文 皿」(図1)を取り上げます。



  千鳥とは、河原や海辺で見られるチドリ科の小鳥の総称です。群れを成して飛ぶ様子から「千鳥」と呼ばれるようになりました。

 日本では、千鳥は古来馴染み深いいきものです。『和漢三才図会』巻41「水禽類」の「鴴(ちどり)」(いわゆる「千鳥」)の項目に「歌人詠賞之」とあるように、『万葉集』や『古今和歌集』などにも詠まれてきました。百人一首に数えられる「淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾世ねざめぬ須磨の関守」(源兼昌)などはよく知られている一首でしょう。各地の水辺の名勝とも結びつき、詩的な情趣を醸すものとして好まれました。 平安時代以降は、蒔絵や染織品など、工芸品のモチーフとしても採り入れられるようになります。詩歌の影響からか、波千鳥や網干千鳥、蛇籠千鳥など、水辺のモチーフとの組み合わせがよく見られます。また、江戸時代においては、デフォルメが進み、ふくよかな姿となることが指摘されています。

 伊万里焼における千鳥文は、「染付 千鳥文 皿」で示されるように17世紀前半から見ることができます。本作では、円形の画面に飛翔する6羽の千鳥があらわされています。江戸時代の千鳥文の傾向に漏れず、全体的にふっくらとした愛らしい姿ですが、よく見ていくとポーズが多少異なっていたり、塗りつぶしの青色に濃淡があったりと、1羽ずつ個性があります(図2)。当館では5客で収蔵していますが、いずれも位置が近いもの同士は青色の濃さが異なっていますので、意図的に濃淡が変えられているのでしょう(図3)。背景も無い非常にシンプルな皿ですが、ポーズや濃淡の違いによって、リズミカルに千鳥があらわされた作品です。





 伊万里焼では、その姿の愛らしさからか、本作のように千鳥のみが文様として抜き出された作例が他にも見られます(図4)。これらの作例では千鳥の姿そのものに焦点が当たる一方で、17世紀後半から増加することが指摘されているのが、波や流水などの水辺のモチーフと組み合わせて描かれたパターンです(図5)。



 

 千鳥と水辺のモチーフとの組み合わせは、先述のように数々の和歌に詠まれてきたような詩的な情趣を根底としつつ、日本の工芸品の中で醸成されてきた意匠です。17世紀後半は中国からの影響が薄れ、伊万里焼の意匠の和様化が進んだ時代とされます。富士山や雪輪などの日本ならではのモチーフが意匠として採り入れられたと言い、波に千鳥もそのひとつに数えられています。17世紀前半の段階からすでにそのものだけでも表現されていた千鳥が、水辺のモチーフと組み合わされることにより、情緒を纏って文様としての深みをさらに増していると言えるでしょう。

 伊万里焼に表現されるいきもののモチーフは、吉祥意を内包している幻獣であったり、最新の舶来種であったり、実在・非実在を問わず多種多様です。中国からの影響がうかがえるモチーフも少なくありませんが、千鳥のように古来日本で親しまれてきたいきものも含まれています。  モチーフとして採り入れられる背景は多様で、江戸時代の人々のいきものたちに対する多角的な眼差しを感じることができます。展示室では千鳥以外にも様々な種について紐解いておりますので、ぜひご高覧いただけますと幸いです。


(黒沢)


【主な参考文献】
・国立歴史民俗博物館編『江戸モード大図鑑—小袖文様にみる美の系譜—』NHKプロモーション1999
・大橋康二「柴田コレクションの魅力と有田磁器の真髄」『柴田コレクションⅦ—17世紀、有田磁器の真髄—』佐賀県芸術文化育成基金2001
・並木誠士『すぐわかる日本の伝統文様』東京美術2006


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