今年の冬は各地で大雪となっておりますが、皆さま恙なくお過ごしでしょうか。今回は、ちょっと季節違いですがミズアオイが描かれたお皿をご紹介します。
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「色絵 水葵文 皿」鍋島(17世紀末〜18世紀初) 口径:14.8cm 高さ:4.4cm 高台径:8cm |
水葵を見込に大きく描き、背景には墨弾きによる細かい青海波をあしらった盛期鍋島の五寸皿です。葵に似た葉を持ち、水辺に生えることから水葵と呼ばれるこの植物は、現在では絶滅危惧種に指定されるほど数が減ってしまって馴染みがありませんが、昔は水田や湿地にたくさん生えており、食用・染料にも利用されていたようです。よく似ていて同一視されることも多い植物に「水葱」と書いて「ナギ」、あるいは「小水葱(コナギ)」というのがあり、『万葉集』記載の和歌にも詠まれているほど古くから親しまれた植物でした。夏から秋にかけて青紫色の綺麗な花を咲かせますが、江戸時代の植物図鑑『本草図譜』には白花や赤花の水葵も掲載されています。このお皿の花は赤の輪郭線だけで描かれていて、清楚な印象です。染付の青と相まって赤紫色にも見えますね。
献上品である鍋島焼には、おめでたい、縁起の良い文様が描かれることがよくありました。もちろん、デザインだけで選ばれた図柄もあると思いますが、大概は何かしら吉祥の意味を込めて描かれています。このお皿の場合はどうでしょうか。ミズアオイ自体には、和歌にも詠まれる風流な植物という以外に吉祥の意味はなさそうですが、葵といえば徳川の家紋です。別種の植物ではありますが、水葵に葵の意味を重ねているのでは・・・そう思うと背景に使われている青海波も、単に水辺を表すだけではなく、意味を持ってきます。限りなく続く波の文様は、永遠を表わす吉祥文様。もし水葵が徳川の葵を象徴しているならば、この組み合わせは徳川家が永遠に続くことを願った文様になります。
民間流通品の伊万里焼であれば、家紋的な文様を単なるデザインとして採り入れていることが多いので、たとえ葵が描かれていてもここまで深読みする必要はないのですが、前号で書いたように鍋島焼は政治的な性格のやきものです。献上する側としては、いかに為政者の気に入るようなものを作るか、ということに心を砕いていたはずですから、一見写生風の植物図に徳川家の繁栄を願う意味を込めることも充分にあり得るのです。今展示では、お皿に込められた意味を読み解きながらご覧いただけるよう、随所に吉祥文様を紹介する小さなパネルを設置していますので、ご参照下さい。
また、鍋島焼の三寸・五寸・七寸の皿は、将軍に献上される時、それぞれ20枚1組が基本単位でした。この水葵の五寸皿も、元々は同じ図柄の20枚で組食器になっていたのでしょう。今は1枚から5枚単位で展示されることが多い鍋島焼ですが、「これが20枚あったらどんな感じだろう」という目でご覧いただくと、雰囲気が変わってくると思います。
(松田) |