学芸の小部屋

2024年6月号
「第3回:金襴手様式の伊万里焼の定番文様」

 お庭の紫陽花が色づきはじめたこの頃、開催中の『鍋島と金襴手-繰り返しの美-展』の会期も残り僅かとなりました(~6月30日)。  今月の学芸の小部屋では、金襴手様式の伊万里焼に繰り返しあらわされる定番文様をご紹介いたします。

 うつわをまたいで繰り返しあらわされる文様を、今展では定番文様と呼んでいます。金襴手様式の伊万里焼には、唐草や牡丹など、ひとつのうつわに複数の定番文様があらわされているものが多く見られます。 そもそも伊万里焼の金襴手様式とは、17世紀末期に登場する色絵磁器の一様式。左右対称の構図が主で、区画や窓といった枠を多用します。染付の青色による骨格に、金と赤を中心とした上絵具で賦彩する染錦の絵付け技法が基本です。


 このように骨格が先に用意されているため、パターン化した文様を枠内に嵌め込んでいくだけで完成を見る、比較的製作効率の良い様式であるといえます。

 本稿では定番文様の中から枠内にしばしばみられる「半裁の菊花」に注目します。以下の表のように、今回の出展作品のなかにもいくつか見つけることができました。



 地文様と組み合わせたり、様々なタイプの唐草を伴ったりと、同じ構成のものがありません。例えば表中3、4の2点の「色絵 龍鳳文 鉢」は、染付部分は同一で、上絵付けが色違いの作例です。区画枠の中にあらわされた定番文様の表現は色のみならず、葉の数や地文様の有無などの細部まで異なるのが面白いところ。また、5「色絵 花卉文 十二角鉢」は1~4に比べて少し変化した形です。時代が下り、さらなるヴァリエーションが窺えます。

 今展では是非、隣同士やレーンをまたいで展示されている作品を見比べながら、繰り返しあらわされる定番文様をお楽しみいただけましたら幸いです。
(小西)


【主な参考文献】
小木一良・村上信之『華麗・絢爛の美 古伊万里金襴手作品』創樹社美術出版 2016
栗田俊英・田口惠美子・小木一良『名品撰 古伊万里金襴手作品』創樹社美術出版 2017


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